いわゆる「歯石除去」のことですね。人の歯科医療では数か月に1回程度の口腔内クリーニングを行うことが一般的と言われています。では、犬猫の場合はどうでしょうか?
犬猫のスケーリングは人と違い、基本的に全身麻酔が必要です。その理由は「痛みを伴い、我慢することが難しいため」、「処置の必要性を理解できず、意識下での処置は恐怖を与えてしまうため」、「予期せぬ体動による危険を避けるため」、「冷却に大量の水が必要であり、処置による誤嚥性肺炎を防ぐため(気管内挿管による呼吸経路の確保が必要)」等です。
無麻酔でも一部の歯石は除去できるのですが、歯周病の治療として重要なのは歯と歯茎の隙間にある歯石と歯垢(細菌の塊)を除去することです。歯石だけでなく、歯垢も完全に除去しないと治療にはなりません。歯石は細菌が付着する土台となるため、歯石が歯に堆積すると口腔内の細菌数が爆発的に増加します。もちろん機械的清掃無しの抗菌薬のみの投与では全く意味がありません。不適切な抗菌薬の乱用は薬剤耐性菌を生み出し、動物だけでなく人の社会にも治らない感染症を生み出す原因になります。スケーリング後に抗菌薬を用いるのは適切な治療法です。
最新の知見では1歳の犬の90%が歯周病を罹患しているとも言われていますが、全身麻酔が必要と言われるとどうしても抵抗を感じてしまい、ついつい避けてしまっているご家族様も多いのではないでしょうか?
「ご飯食べられてるし、気にしてる様子もないから大丈夫じゃないの?」
「かかりつけ医では指摘されたことが無いけどなぁ」
「確かに口は臭くなって来たけど、治療が必要になったらやろうと思っていた」
若いうちは特に歯周病による明らかなトラブルは比較的起きにくいのでこのように感じられるかもしれません。歯周病の進行には様々な要因が関係していますが、小型犬は比較的若齢から歯周病の症状が悪化しやすい傾向があります。歯周病は進行すると全身の問題に発展していきます。呼吸器との関連は想像できるかもしれませんが、各種臓器や眼球等にも感染の原因となり得ます。
Journal of American Animal Hospital Association 2019年5、6月号に掲載された記事で、非常に興味深い研究結果が報告されていましたのでご紹介します。
この研究ではアメリカの一次診療施設に来院した犬237万頭を調査して、体格や犬種、体重、避妊去勢の有無ならびに動物病院への来院頻度、歯科スケーリングの頻度と寿命との関連性を評価しています。その結果以下の知見が得られたことを報告しています。
・体格は小さいほど寿命が長い
・雑種犬の寿命は純血犬の寿命より長い
・避妊しているメス、去勢しているオスはそうでない犬よりも寿命が長い
・年1回の歯科スケーリングは死亡リスクを18.3%低下させる
この研究によるデータはあくまでも‟ひとつの結果“ではありますが、スケーリングが寿命に関連しているのではないかという投げかけをしてくれています。
ただし、スケーリングは基本的に全身麻酔下で行われるため、もちろん麻酔のリスクも考慮する必要があります。年齢や持病によりリスクは大きく変わってきますので、事前に担当の獣医師とよく相談したうえで実施するようにしましょう。通常は血液検査、X線検査などで基礎疾患の有無を確認してから臨みますし、これが定期健診的な意味合いも持つことになります。
犬は1歳で90%が歯周病と言われていますので、1歳未満から歯磨きやケア製品での口腔ケア習慣をつけるようにしましょう。デンタルケアを謳っている製品の中には、歯を破折するおそれのあるものが平気で店頭に並んでいたりするので、使用の際は動物病院にお問い合わせください。意外に多いのはガムを正しく使えていないケースと、ガムの使用による体重のコントロール不良です。肥満はあらゆる疾患の原因となり得る上に、麻酔の危険度を高めてしまいます。また同時に、獣医師と麻酔下でのスケーリングについてもしっかりと相談していき、健康寿命を長くすることを目指していって下さい。1歳以上の子は口腔の状態を見た上で、デンタルケアから入るのか、家庭でのケアの前にスケーリングが必要なのかを獣医師に相談して下さい。歯周病がある状態でホームケアから始めてしまうと、痛みによる苦痛から動物が口を触られることを嫌がるようになります。無理やり続けると、その子は一生口を触れない子になってしまいますので…
Ethos Vet Clinic(エトスベットクリニック)では麻酔下のスケーリングも含め、予防歯科に力を入れています。予防歯科に力を入れる理由として、進行した歯周病は大掛かりな手術になる上、大半の歯と周辺組織を失ってしまうからです。治療しても元のような状態には戻りません。早期からの治療介入に費用的な負担はそれなりにかかりますが、定期的にスケーリングした場合とそうでない場合、結局のところどちらもある程度コスト(時間・費用)がかかります。重症になってから治療を開始した場合の方がコストがかかる上に侵襲も強く、結果歯が残らないのでは悲しいですね。
「今の歯の状態を確認したい!」
「歯磨きが難しくてできない!」
などのお悩みに対して健康な歯を維持するための各種アドバイスをさせていただきますので、ぜひご相談ください!
参考文献:Risk Factors Associated with Lifespan in Pet Dogs Evaluated in Primary Care Veterinary Hospitals:JAAHA May/Jun 2019
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