このところワクチン接種と抗体価測定についてお問い合わせ頂くことが多いため,この場で解説します.年に一度動物病院からハガキが届いてワクチン打ってるけど,病院によっては毎年打たなくて良いとも聞いたことがあるし,実際のところ何が正しいのか分からないという飼い主様のお役に立てればと思います.
ワクチンとは病原体を弱毒化,または無毒化された製剤のことです.多くは注射薬ですが,一部点鼻するタイプの液剤が存在します.弱った病原体を意図的に取り込むことで,通常の感染よりも低リスクに抵抗力をつけることを目的とします.ワクチンが存在する病気は殆どがウイルス由来で,感染力が高いものが主です.新型コロナウイルス感染症で改めて思い知らされたことですが,感染症の社会に対する影響力は強く,一度蔓延すると収束するまでに多大な労力を要します.社会ではなく個々の話だと感染症は一定期間症状を示すことが多く,基本的には特効薬もないことから回復には免疫力(抗体産生など)と基礎体力(栄養状態や筋肉など)が必要とされています.病原体によっては後遺症が強く残るものもあり,感染して乗り超えればそれで終わりというものでもありません.動物用のワクチンは混合ワクチンが主で,単体のワクチンはほぼありません.ワクチン接種には病気にかかりにくくなるというベネフィットだけでなく,アレルギー反応を起こすリスクもあります.アレルギー反応は時に致命的ですが,頻発するほどではないためベネフィットが上回り,ワクチン接種をする意義があると考えています.アレルギー反応については別の記事で解説することにします.
抗体価とは,病原体に対する抵抗力を測定して数値化したものです.感染やワクチン接種で得た抗体価は通常ゆっくり下がっていきます.昔は打ったワクチンの効果を検査できませんでしたが,現在は抗体価測定により評価可能となりました.抗体価が十分に高ければ,その病原体に対するワクチン接種の必要はありません.しかし抗体価測定可能な病原体は少なく,基本的には犬猫とも3種類程度(これらに対するワクチンはコアワクチンと言います)しかありません.つまり混合ワクチンに含まれてる病原体全ての抗体価を測定できないのです.抗体価測定出来ない病原体(レプトスピラ等)については生活スタイル(完全室内飼いかどうか,散歩の範囲等)によって接種を検討するのが良いと思います.
①毎年接種する場合
メリット:抗体価の維持はある程度担保される
デメリット:毎年ワクチンアレルギーを起こす可能性がある.抗体価が高い状態でワクチン接種するとあまり意味がない.
②抗体価測定をする場合
メリット:コアワクチンの接種頻度を減らせる可能性がある.ワクチンアレルギーの既往があるけどしっかり予防したい場合,最適な方法です.
デメリット:ノンコアワクチン接種推奨の子の場合,結局ワクチンの接種回数は大差なくワクチンアレルギーリスクの低減に貢献しているかは疑問である.コアワクチンは大丈夫でもノンコアワクチンでアレルギー反応を起こす子もいるため,リスクの比較はできません.仮に1年後の抗体価が十分であっても,次の抗体価測定をいつ行うかの課題は残ります.もう一年後に測定して抗体価が下がっていた場合,いつから抗体価が低かったのかは分からず予防医療という意味では詰めが甘くなってしまいます.
100%正解これが安全という方法は存在しないため,以上を踏まえてよく考える必要がありますね.抗体価測定が気になる方はご予約の上,診察にお越し下さい.採血が必要な検査なので,併せて健康診断をする機会にもなります.健康診断もご希望の場合,朝ごはんを抜いた状態でお越し下さい.各種費用については,病院までお問い合わせ下さい.
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